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田酒の思い出
2017.01.12
青森のお酒に「田酒」と呼ばれる銘酒があります。
先日、友人がこの田酒を送ってくれました。一年に一度だけ作られるという銘酒は、爽やかなワインのようなのど越しで、家族で美味しく味わいました。
さて「田酒」
主人には、また格別の思い出があります。
主人の大学は北里大学で、獣医学部は北の果て、青森県の十和田市に学舎があります。
一年生の相模原時代から、2年になって十和田での生活を始め、最初に三重に帰郷する際、郷里の父のために美味しいお酒を持ち帰ろうと思ったそうです。
そしてこの田酒の一升瓶を二本、スポーツバッグの中に寝かせて持ち、帰路に着いたのだそうです。
当時、青森からの陸路の交通手段は、寝台列車。
ブルートレインの寝台に乗り込んで、重かったお酒入りのバッグを床に置いたとたんにパリーン!
瓶の割れる音と共に、一瞬にして二本の田酒は、バッグの中で池を作りました。
情けないやら、もったいないやら、今でこそ笑って話す主人ですが、二十歳そこそこの青年が、なけなしのお金で頑張って買ったお土産が、一瞬にして、まさに床に「消えてなくなる」のですから、がっかりしただろうなと、私は思います。
二十歳の主人は、そのこぼれたお酒を、寝台列車の中で、すすり飲んで、すすり泣きながら眠ったのでしょう。列車の中は、蒸せ返るようなお酒の香りが漂っていたと言います。今なら、車掌さんが飛んでくるのでは?と思いますが、そのまま東京で降りたというのですから、時代が良かったとでも言うのでしょうか?ひょっとしたら、家に帰って「今日は寝台で、お酒を飲む夢を見たよ」という人が沢山いらしたかも、と、当時の列車内を想像したりして笑いました。
ずっと忘れていたこの話。私が結婚して間もない頃、青森の酒屋さんの前で車を停めて、笑い話に聞いたのを、昨晩は美味しい「田酒」そのものを酌み交わしながら、笑い話しにしました。